千葉地方裁判所 昭和61年(ワ)1489号 判決
主文
一 被告渡邊征太郎は原告小野都代に対し別紙物件目録記載(一)及び(二)の各土地について別紙登記目録記載(一)の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
二 被告田中稔は原告小野都代に対し第一項の抹消登記手続をすることを承諾せよ。
三 被告渡邊征太郎は原告佐々木孝子に対し別紙物件目録記載(三)の建物について別紙登記目録記載(二)の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
四 被告田中稔は原告佐々木孝子に対し第三項の抹消登記手続をすることを承諾せよ。
五 訴訟費用は被告らの負担とする。
事実
第一 申立て
一 原告ら
主文と同旨
二 被告ら
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 主張
一 原告らの請求原因
1 原告小野都代は、昭和五二年一〇月訴外株式会社綜合企業(以下「綜合企業」という。)から別紙物件目録記載(一)及び(二)の各土地(以下これを合わせて「本件土地」という。)を買い受け、本件土地について千葉地方法務局千葉西出張所同月二九日受付第八六八一五号所有権移転登記を経由した。
2 被告渡邊征太郎は、本件土地について別紙登記目録記載(一)の所有権移転登記(以下「(一)の登記」という。)を経由している。
3 原告佐々木孝子は、昭和五三年四月別紙物件目録記載(三)の建物(以下「本件建物」という。)を建築し、本件建物について前記千葉西出張所同月二〇日受付第一六〇九号所有権保存登記を経由した。
4 被告渡邊は、本件建物について別紙登記目録記載(二)の所有権移転登記(以下「(二)の登記」という。)を経由している。
5 被告田中稔は、本件土地及び本件建物(以下これを合わせて「本件土地建物」という。)について別紙登記目録記載(三)の所有権移転登記(以下「(三)の登記」という。)を経由している。
6 そこで、原告都代は、所有権に基づいて被告渡邊に対し本件土地について(一)の登記の抹消登記手続を求めるとともに、被告田中に対し右の抹消登記手続を承諾することを求め、原告孝子は、所有権に基づいて被告渡邊に対し本件建物について(二)の登記の抹消登記手続を求めるとともに、被告田中に対し右の抹消登記手続を承諾することを求める。
二 請求原因に対する被告渡邊の答弁
1 1のうち、原告都代が本件土地についてその主張の所有権移転登記を経由した事実を認めるが、その余の事実を否認する。綜合企業から本件土地を買い受けたのは、原告孝子であった。
2 2の事実を認める。
3 3の事実を認める。
4 4の事実を認める。
5 5の事実を認める。
三 請求原因に対する被告田中の答弁
1 1のうち、原告都代が本件土地を所有していた事実を認める。
2 2の事実を認める。
3 3のうち、原告孝子が本件建物を所有していた事実を認める。
4 4の事実を認める。
5 5の事実を認める。
四 被告渡邊の抗弁
1 被告渡邊は、昭和五四年一一月当時事業上の資金繰りに窮していた。原告孝子も、訴外地銀生保住宅ローン株式会社(以下「地銀ローン」という。)に対するローンの支払や、訴外株式会社クレセント・リース(以下「クレセント」という。)に対する借入金の弁済に苦しんでいた。そこで、被告渡邊は、原告孝子に対し、「原告孝子所有の本件土地建物を、被告渡邊の金融機関からの資金借入れの担保として使用させて貰えないか。」と頼んだところ、原告孝子は、「地銀ローンに対する支払及びクレセントに対する弁済を、被告渡邊が代わって実行してくれるのであれば、応じても良い。」と回答した。被告渡邊は、原告孝子の申入れを承諾し、原告孝子との間に、「被告渡邊は、金利を安くするため金融機関から住宅ローンの形式で資金を借り入れることとし、本件土地建物の名義を売買の名目で被告渡邊に移転する。」と約定して、原告孝子から本件土地建物を信託的に譲り受けた。
2 被告渡邊は、原告孝子から、本件土地建物の登記済証、原告らの印鑑証明書及び登記申請委任状を受け取り、これを使用して本件土地につき(一)の登記の、本件建物につき(二)の登記の各登記手続をした。
3 原告孝子が原告都代に対し既に本件土地を贈与等により譲渡していたとすれば、原告都代は、原告孝子に対し、本件土地につき被告渡邊への所有権移転登記手続をする代理権を授与した。仮に原告孝子のした行為が無権代理のものであったとしても、原告都代は、昭和五四年一一月から一二月ころまでの間にこれを追認した。
4 被告渡邊は、昭和五四年一一月本件土地建物に抵当権を設定して訴外株式会社住宅ローンサービス(以下「ローンサービス」という。)から二一四〇万円を借り入れ、そのころ原告孝子に代わって地銀ローンに約八〇〇万円及びクレセントに二〇〇万円をそれぞれ支払った。
五 四の抗弁に対する原告らの答弁
1 1のうち、原告孝子がクレセントから金銭を借り入れていた事実を認めるが、その余の事実を否認する。
2 2の事実を否認する。
3 3の事実を否認する。
4 4のうち、被告渡邊が本件土地建物に抵当権を設定し、地銀ローンに借入金八五〇万円の残額を支払った事実を認めるが、被告渡邊がクレセントに二〇〇万円を支払った事実を否認し、その余の事実は知らない。
5 原告孝子は、昭和五四年に被告渡邊から、「産業廃棄物の処理業を行うことになった。公の金融機関から低利の資金を借り入れることができるので、保証人が二人いる。なってくれないか。」と頼まれ、これを断わったが、被告渡邊が、「身元の保障人でも良い。」というので、原告都代とともにこれを承諾し、原告らの印鑑証明書と委任状を被告渡邊に交付した。被告渡邊は、これを勝手に使用して、本件土地建物に(一)及び(二)の各登記を経由したものと思われる。
六 被告田中の抗弁
1 被告渡邊は、昭和五四年一一月一六日原告都代から本件土地を、原告孝子から本件建物をそれぞれ買い受けた。
2 被告田中は、昭和五六年二月二九日被告渡邊に七〇〇万円を、利息年一割五分、損害金日歩八銭二厘の約定で貸し付け、これを担保するため本件土地建物について千葉地方法務局千葉西出張所同年三月一日受付第六二三一号抵当権設定登記及び同出張所同日受付第六二三二号停止条件付賃借権仮登記を経由した。
3 被告田中は、昭和五六年一月二六日被告渡邊に一〇〇万円を、利息年一割五分、損害金年三割の約定で貸し付け、これを担保するため本件土地建物について前記千葉西出張所同月二七日受付第二三七八号抵当権設定登記及び同出張所同日受付第二三七九号停止条件付賃借権設定仮登記を経由した。
4 被告田中は、その後も被告渡邊に金銭を貸し付け、昭和五八年九月には約二〇〇〇万円に達した。そこで、被告田中は、同月一三日被告渡邊との間に、「右の賃金債権を担保するため本件土地建物の所有権を被告田中に移転する。」との譲渡担保契約を結び、本件土地建物について(三)の登記を経由した。
5 仮に原告らと被告渡邊との間の本件土地建物の売買契約が無効であったとしても、原告らと被告渡邊は、通謀の上、本件土地建物の売買契約を結んだように仮装し、本件土地建物についてその旨の(一)及び(二)の各登記を経由した。
被告田中は、(一)及び(二)の各登記を信じて、被告渡邊から本件土地建物の譲渡を受け、本件土地建物について(三)の登記を経由した。
被告田中は、右のように信用したことについて過失がなかった。
七 六の抗弁に対する原告らの答弁
1 1の事実を否認する。
2 2のうち、被告田中が本件土地建物についてその主張の各登記を経由した事実を認めるが、その余の事実は知らない。
3 3のうち、被告田中が、本件土地建物ついてその主張の各登記を経由した事実を認めるが、その余の事実は知らない。
4 4のうち、被告田中が本件土地建物について(三)の登記を経由した事実を認めるが、その余の事実は知らない。被告渡邊は、本件土地建物の所有権を有しなかったのであるから、(三)の登記は無効なものである。
5 5のうち、被告渡邊が本件土地建物について(一)及び(二)の各登記を経由し、被告田中が本件土地建物について(三)の登記を経由した事実を認めるが、原告らが被告渡邊と通謀して本件土地建物の売買契約を結んだように仮装した事実を否認する。
第三 証拠関係(省略)
別紙
物件目録
(一) 千葉市花園町四一番三一
宅地 一三二・三九平方メートル
(二) 千葉市花園町一五五六番二
宅地 二三・一四平方メートル
(三) 千葉市花園町四一番地三一、一五五六番地二
家屋番号 四一番三一
居 宅 木造瓦葺二階建
床面積 一階 六〇・五九平方メートル
二階 三四・三六平方メートル
別紙
登記目録
(一) 千葉地方法務局千葉西出張所昭和五四年一一月一六日受付第四三二六三号所有権移転登記
(二) 同法務局同出張所昭和五四年一一月一六日受付第四三二六四号所有権移転登記
(三) 同法務局同出張所昭和五八年九月一四日受付第三一三八五号所有権移転登記